名古屋で弁護士をお探しなら、丸の内駅前のすずらん法律会計事務所にお気軽にご相談ください。

052-239-1220

すずらん法律会計事務所

お問い合わせ・ご相談

>
>
税金

税金

 

ストックオプション課税と源泉徴収義務 

ストックオプションとは、会社が自社又は子会社の役員、従業員等に対して付与する自社株式を、一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格で購入することのできる権利のことをいいます。例えば、現在1株1000円の株式を、5年以内に1000円で購入できるとする権利です。この権利を賦与された人は、5年以内に株価が1000円以上になっている場合(例えば3000円)、それを1000円で購入できるのですから、大きな利益を得ることが出来ることになります。

ストックオプションを行使した場合の税金はどうなるのでしょうか?

この課税をどうするかについては色々の考え方がありましたが、現在は、税制適格ストックオプションとその適用を受けないストックオプション(税制非適格ストックオプション)に分けて課税されるようになっています。

税制適格ストックオプションとされるためには、年間の権利行使価額の上限を1200万円とするなど様々な要件が課せられています。税制適格ストックオプションは、権利行使した時点では課税がなされず、実際その株を売却した時点でその売買益が譲渡所得として課税されます。これは我々の感覚に近い気がします。これに対して、税制非適格ストックオプションは、注意が必要です。権利行使した時には通常株を売却していませんから利益は現実化していませんが、権利行使時の終値を基準にして給与所得として課税される取扱いです。したがって、上記の事例で5万株について権利行使をしたとすると(3000円-1000円)×50000=1億円の給与所得があったとみなされて課税されることになります。実際には、まだ株を売却していないのにもかかわらず1億円の給与所得を得たとして課税されるのですから、結構大変です。会社には源泉徴収義務がありますから、この給与に対して源泉徴収をして税務署に税金を納付する必要があることになります。このようにストックオプションを行使された結果会社に多額の源泉徴収義務が発生し、その税金の納付が遅れたため多額の延滞税が課せられたという話を聞いたことがあります。多額の源泉税が発生するような場合は、行使者から予め税金を徴収するなどの対応が必要となります。

 

相続における税額軽減が絡んだ事件 

相続では色々の税額軽減措置が設けられていますが、その中でも良く活用される税額軽減が「配偶者に対する税額控除」だと思います。この控除は、法定相続分に対応する税額若しくは1億6000万円までが軽減の対象になります。したがって、配偶者の取得額が、配偶者の法定相続分以下であるか、1億6000万円以下である場合は、配偶者に相続税は課税されないことになります。配偶者しか相続人がいない場合は、いくら相続しても相続税はかからないことになります。

ただ、この税額控除を受けるためには、相続税の申告をする必要があるとされていますので、配偶者の相続する財産が遺産分割によって確定していることが前提となります。したがって、確定申告期限までに遺産分割協議ができないときは、とりあえず相続税の申告書を提出しておき、遺産分割が成立した日の翌日から4か月以内に更正請求をすることになります。このような手続きが少し煩雑なこともあり、問題が生じてしまうことがあるようです。

 

ア 後で、本当の遺産分割をするといわれ署名・押印してしまった事件

先妻の子が、後妻から「配偶者の控除を受けるために、期限内に遺産分割協議書を提出する必要がある。ついてはこの遺産分割協議書に署名・押印して欲しい、今回の遺産分割協議書は税務署に提出するだけに使用するもので、本当の遺産分割は後日相続人間で協議して行う」といわれ、後日本当の遺産分割をするつもりでこの遺産分割書に署名・押印したところ、後妻によりこの遺産分割協議書により遺産分割が成立したとして遺産分割がなされてしまったという事件です。先妻の子は、この遺産分割協議書による遺産分割は無効とだとして争いましたが、裁判所は、先妻の子の主張を認めませんでした。その理由は、税務署に提出するためだけの仮の遺産分割協議書であるなら仮の分割であることを示す念書等が存在するはずであるが、本件ではその事実を伺わせるような書類はない、というのが主な理由でした。

本意でない内容の遺産分割協議書には、お願いされても署名・押印しないのが賢明だと思います。裁判官の多くは、確定申告をしていませんので納税の苦労はあまり分からないようです。

 

刑事事件(脱税事件) 

税金の絡む刑事事件といえば、脱税事件が思い浮かびます。脱税で起訴される事件は、マルサ(国税局査察部)が入る大きな事件が多いように思います。マルサが刑事告発して、検察が起訴しなかったことはなく、さらに検察が起訴して無罪になったのはたった1件だけだということです(その1件の無罪を勝ち取った八田隆氏の「勝率ゼロへの挑戦」による)。税金については、弁護士も裁判所も詳しくないことも、マルサが刑事告発した事件において無罪がほとんどないことの一因のように思います。

 

消費税の脱税事件 

2023(令和5)年10月1日から新たな仕入れ税額控除の方式として「適格請求書等保存方式」いわゆる「インボイス制度」が導入されることになり、各地でそれに向けた研修がおこなわれています。既に、2021(令和3)年10月1日から「適格請求書発行事業者の登録申請」の受付は始まっています。

消費税は平成元年4月1日から我国に導入された税制度ですが、その後税率を含め何度か改正がなされ、また軽減税率制度が実施されるなど我々弁護士にはなかなかその理解・把握が困難な税制度です。また、選挙において政治家から色々な提案(消費税の廃止や税率の変更等)がなされる税制度でもあります。

消費税は、会社の場合、資本金が1000万円未満の場合は、原則設立後2期間は消費税の納税義務が免除されます。これを巧みに使って消費税の納税義務を免れようとした人材派遣会社が、脱税で起訴された事件がありました。

人材派遣会社は、多くの場合請負の形式を採って人材を派遣しています。請負ですから、派遣先から消費税が支払われます。他方派遣会社は、派遣する人材を雇用して給料を支払うことになりますが、給料には消費税は課されませんので、この分について仕入れ消費税が発生しません。そのため、派遣会社は多額の消費税を支払うことになります。これを避けるため、子会社を幾つか設立し従業員をその子会社の従業として在席させ、その子会社から従業員の派遣を受け、さらにその従業員を派遣することにした事案でした。そして、子会社は売上1000万円以下にするか、2年間で廃業するなりして、消費税の納税を免れるように計画しました。この派遣会社は、このようにして実質的には従業員の給料を、子会社からの請負代金にして仕入れ消費税を発生させ、その分消費税を免れていたのです。税務当局は、子会社の従業員は、実質的にはこの会社の従業員であるとし、これは許される節税方法ではなく脱税であるとして刑事訴追したものでした。脱税金額も数億円に上るものでしたので、代表者には実刑判決もあり得た事件でした。何とか執行猶予は付されましたが、多額の罰金が科せられました。

このようなスキームは、専門家の助言がなければ考えつかないように思いますが、この事件では、関与税理士は訴追されませんでした。もっとも当時この人材派遣会社と同様の手口で消費税を免れようとして刑事訴追を受けた事件が何件かありました。そして、その中には関与税理士も訴追され有罪となった事案もありました。専門家もその助言の仕方によっては刑事訴追を受けることもありますので、助言内容には十分注意を払う必要があります。

 

株の譲渡益についての脱税事件 

株の譲渡益についての課税制度もしばしばその制度が変わっています。上場株式の譲渡益については、時々の株式市況を睨み、国として課税し易い制度をその都度採用しているように思うのは私だけでしょうか。

さて、この事件は、今から30年以上前の正にバブル最盛期の事件でしたが、特定口座により株の売買の状況が把握されている現在の税制度の下では起こり得ない脱税事件でした。当時は、上場株式を証券会社を通じて売買する場合、個人の株の売買益には原則課税されず、個人が業として行う場合にのみその譲渡益に課税がなされていました。素人でも、年間の取引額とその回数が一定以上になる場合は、業として行っていると見做され、課税されたのです。この被告人は、その取引額及び回数の制限を超えていたにもかかわらず、株の譲渡益を税務申告に含めていなかったため、査察を受けたのです。私が査察及び脱税事件の捜査がどのように行われるのかを知った事件でもありました。正に、当時流行った映画「マルサの女」を地で行ったようでした。証券会社、自宅だけでなく、親族の家まで一斉強制捜査の対象になり、個人のプライバシーも暴かれた結果になっていました。

上記のとおり被告人の行った売買の回数、数量いずれも制限を大幅に超えるものでしたので、公訴事実について争える点はなく、情状だけの弁護でした。色々検討してみたところ、この被告人は利益の出ている持ち株を中心に売却しており、利益の出ていないあるいは赤字の株はそのまま売ることなく抱え込んでいたましたので、売買益と持ち株のマイナス分を損益通算すると実際にはほとんど利益は出ていないこと、また証券会社の対応(明らかに業に当たるのに、被告人に申告するように求めた様子がなかったこと)に触れた弁論を展開しました。この弁論が功を奏したか分かりませんが、通常罰金については求刑からあまり減額されないのが一般ですが(経験的に減額は、0かせいぜい10%程度)、罰金求刑5000万円が、判決で3500万円と30%減額されました。この減額に被告人も喜んでいましたが、本税、重加算税、延滞税とこの罰金で、被告人の得た株の利益は総て吹っ飛んでしまいました。脱税しても良いことはありません、納めるべき税金は納めるのが一番の得策のように思います。